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2010年8月 6日 (金)

風炉先屏風

親友Mの個展に出かけた。

彼女とは、一昨年急逝したK子を通じて知り合った。

温かく明るい人柄、ウイットに富んだ会話、一瞬で大好きになってしまい、すぐにK子と3人で食事を楽しむ仲になった。

知り合った頃はすでに手広く商売をしている会社の社長さんだったが、もともとは日本画家で中学校の教師をしていた人だ。経営者であるお父様が亡くなられ、4人姉妹の末っ子のMが仕方なく継ぐことになったのだそうだ。「まーこれも運命だと思ってますわ」大きな決断をしたであろうことも屈託なく笑って話していた。

絵は、経営者になっても忙しい合間を縫って描いていたようだ。

ところが5年前、病気のため視力を失ってしまった。

視力を失っても、Mの快活さは変わらず、会って話せばこちらが元気付けられるほど。

そのMから電話があり「今度、これまで描きためた絵を集めて個展をするから来てよね。なかなか友人たちに会えなくなっちゃったから、個展でもやっておびき出そうと思うのよ。それからね、展示した絵の中で気に入ったものがあれば貰ってほしいのよ。ま、生前形見分けってとこかしらね、あはは」と明るく語った。

会場に行くと、Mの友人が沢山来ていて、Mはその中心でうれしそうにしていた。

「あのね、あなたにはちょっと派手だけど風炉先屏風を貰ってほしいのよ。お茶されたっけ?お茶やらなくても貰ってよぉ、ね。」と言う。

金地に大ぶりなチューリップが3輪だけ描かれている。花の色は白で斑に赤が入っている。Mらしい伸び伸びとした構図の絵だ。「あんな立派なものいただいてもいいのかしら?」「いいに決まってるわよ。あのチューリップ、K子と私とあなただと思って時々見てほしいのよ」ずいぶん前に描いたであろう絵を、いま彼女は心の目で見ていて、想いを私に託そうとしている。

泣けた。勘の鋭い人だから、気づかれまいと必死に奥歯をかみ締めて堪えた。

「わたしゃ毎日お茶を点てるような優雅な暮らしはしていないけど、これ貰っちゃったからには、時々嗜まなきゃね。しゃあないなぁ」無理無理可愛げのない憎まれ口をたたいてみた。

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コメント

破顔亭様 余りにも 高尚な お話で 今ひとつ 理解に乏しい私ですが 日本画家さんですか 素晴らしい 近年 仲々 日本画への 取り組みは めっきり 減ったと 美術商が言ってました. 今時 屏風と 申しましても 解らない人が 多くいるでしょう. 有名タレントの婚約の時は( 金びょうぶ前で)等 簡単に いえますが. すてきな お作品でしょうね すてきな 心づかい. 背すじが のびます

投稿: マダムサムタイムケリー's TALK | 2010年8月 6日 (金) 23時02分

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